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高松高等裁判所 昭和35年(ラ)99号 決定 1961年10月14日

抗告人(申立人) 大沢正一(仮名)

右法定代理人親権者母 大沢タミ子(仮名)

相手方 川瀬行雄(仮名)

主文

原審判を取り消す。

相手方は抗告人に対し金四八,〇〇〇円を即時に、昭和三十六年十○月十七日から昭和四十五年四月十六日迄月金三,〇〇〇円の割合の金員を毎月十七日迄に支払え。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

よつて案ずるに、当裁判所も原審認定どおりの事実をその挙示の資料により認定する。そして、相手方は、申立人の親として申立人を扶養する義務がある。それで、その扶養の程度及び方法につき考えるに、扶養義務は、その履行の請求のあつた時に具体化するものであり、また、扶養の方法として、金員の支払を以つて相当とするときは、扶養の性質上、それを前払するのが相当である。このことと前記認定の事実その他記録により認められる諸般の事情から考えると、申立人の本件扶養の請求が相手方に到達したと認められる第一回調停期日の翌日であること記録上並びに暦数上明らかな昭和三十五年六月十七日から申立人が満一八年に達する日の前日であること記録上並びに暦数上明らかな昭和四十五年四月十六日迄月三,〇〇〇円の割合の金員を扶養料として相手方は申立人に対し毎月十七日迄に支払うのが相当である。果して然らば、相手方は、申立人に対し、右扶養料の内、既に支払期の到来した右昭和三十五年六月十七日から昭和三十六年十月十六日迄の分の合計四八,〇〇〇円を即時に支払い、その後の分については、昭和三十六年十月十七日から右昭和四十五年四月十六日迄毎月十七日迄に金三,〇〇〇円を支払うべきである。

右と異なる結論に出でた原審判は不当であるから、これを取消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横江文幹 裁判官 安芸修 裁判官 野田栄一)

(抗告理由)

一、原審判に於て決定された養育料の金額は物価騰貴の今時社会生活上寔に取るに足らない額でありまして、これでは到底抗告人の養育は勿論、糊口をしのぐことができない。

一、尚抗告人の母は病弱の故に、得る収入の術もなく、抗告人を抱え只管家計の困難とたたかつているものでありますが、最早最底生活の見通しもつかない。

その母は抗告人の面倒を全くみられない状態に陥ちております。

一、その反面抗告人の父である相手方は、母と比較できない資産を有し、現に相当な社会生活を営んでいることは周知の事実であります。

一、そこで抗告人は子として顕著な事実実情に基づいて相当した養育費の給付を親から受けなければ、前途暗闇の人生末路を歩まなければなりませんので、簡単な申述なり調査に従つて、軽々しく審判に及んだのは失当であると信ずるので、本件即時抗告に及ぶ次第です。

参照

原審(松山家裁八幡浜支部 昭三五(家)九六号 昭三五・一一・二八審判)

申立人 大沢正一(仮名)

右法定代理人親権者母 大沢タミ子(仮名)

相手方 川瀬行雄(仮名)

主文

相手方は申立人に対して昭和三十五年五月一日から申立人の成年に達するまで一ヵ月金二,〇〇〇円の割合による金員を毎月一日限り支払え。

理由

本件申立の要旨は、申立人は相手方と大沢タミ子との間に出生し相手方の認知を受けたものである。よつて父たる相手方に養育費を支払うよう審判を求めるというにある。

よつて按ずるに

一、申立人が相手方と申立人の親権者である大沢タミ子との間の子として昭和二十七年四月十八日出生し、相手方が昭和三十四年二月二十四日認知したが、申立人の母大沢タミ子が親権者として現在その手許において申立人を養育していることは本件記録添付の戸籍謄本並びに当裁判所調査官及ば徳島家庭裁判所調査官の各調査結果により認め得る。

二、さすれば相手方は申立人の父として申立人に対して扶養の義務を負うものであり、金銭の支払を以てその義務を果すべきものである。よつて右扶養料の額について考察を進めるに、前顕調査官の各調査結果、記録添付の不動産登記簿謄本、相手方審問の結果を綜合すると申立人は現在小学校二年生にして母タミ子と共に暮しているが、母タミ子は事業に失敗したためその所有する畑、宅地、建物はすべて限度一杯に借金の担保に入つているのでこれを生活の資にすることもできず、加えて病弱のため一ヵ月二,〇〇〇円乃至三,〇〇〇円の手内職による収入を基礎として足らないところは借金等して極めて乏しい生活をしていること、一方相手方は、男女併せて二〇人近くの使用人を使つて製糸工場を経営しているが、右経営は欠損続きのためその所有する宅地、建物はすべて限度を超えた借金の抵当に入つていること、しかしながら生活費としては月約二〇,〇〇〇円を欠かすことなく、これで妻ヒサ、長女(中学二年生)、次女(小学二年生)、三女(小学一年生)と共に生活をしていることがそれぞれ認められる。

そうして、子に対して自己と同程度の生活を保障することが未成熟の子に対する親の扶養義務の本質である点に鑑み敍上の事実その他諸般の事情を綜合すると、相手方の申立人に対する扶養料は月二,〇〇〇円を以て相当とする。

三、扶養義務は扶養義務者が扶養請求を受けた時において具体化するものと解せられ、またその性質上前払を以てするのが相当であるから、相手方は申立人に対して、本件申立人の扶養請求の意思表示が相手方に到達したことが記録上認められる第一回調停期日の翌日たる昭和三十五年五月十七日から申立人の成年に達するまで毎月金二,〇〇〇円の割合による金員を毎月一日限り(第一回の支払日は従つて同年五月一日となる)支払うべきものとする。

四、尤も、将来申立人においてその生活費が増大し、相手方においてその負担に堪えられるような事態になれば、右扶養料の増額請求を為し得ることは当然である。

よつて主文のとおり審判する。

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